1.不動産事件

 不動産とは、土地及びその定着物をいい(民法86条)、土地、建物がこれに当たります。  不動産に関する紛争は、売買などの取引行為に関連して生じる場合と、取引以外の事実による紛争とがあります。

取引行為の紛争
@ 意思表示の問題  不動産の売買、賃貸借、抵当権などの担保権設定など、取引行為に関連して生じる紛争では、契約の成立や有効性が争われる場合があります。契約は、民法の意思表示の規定によって、無効ないし取消得べき行為とされる場合があります。例えば、契約の要素に錯誤(事実と認識の不一致)がある場合には、民法95条の規定によって、その者が錯誤に陥ったことについて重大な過失がない限り、契約無効の主張ができます。過去の判例で、造林事業を行うために山林を買受けた買主が、その山林の北側山麓に開削道路が開通して有利であるとの売主の説明を信じ、当初の買受け希望価額を大幅に上回る代金で売買契約を締結した場合、道路の存在が契約の要素となるとしたものがあります(最判昭和37.11.27、判時321―17)。これによれば、実際には開削道路が開通しないといったような場合には、原則として契約の錯誤無効の主張ができます。  取引が、相手方の欺罔行為に基づいて行われたという場合には、民法96条1項の規定によって、当該取引を取消すことができます。例えば、上記判例のケースでいえば、売主が、買主から代金を騙し取ろうとして敢えて虚偽の説明を行い、これによって買主が錯誤に陥って売買契約を締結してしまったというような場合は、契約を取消すことができます。これは民法上の詐欺による取消権ですが、もちろんこれが刑法上の詐欺罪として、刑罰の対象にもなります。  不動産の取引については、宅地建物取引業法が、不動産業者の業務内容を規制しています。宅地建物取引業者(宅建業者)は、広告に際し、宅地建物の所在、規模、形質、利用制限、環境、交通その他の利便、代金等について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはなりません(宅建業法32条)。また、広告には、売買なのか、媒介なのかなどの取引態様も明示しなければなりません(宅建業法34条)。そして、宅建業者は、契約成立までに、取引主任者をして顧客に対して書面を交付して重要事項を説明させなければなりません(宅建業法35条)。宅建業法35条には、重要事項が例示列挙されており、例示されている事項について説明しない場合には、錯誤、詐欺に該当し、契約が無効となる場合があります。

A 代理の問題  また、不動産取引は、代理人を通じて行うケースも多く見られますが、本人ではない代理人が本人に代わって取引ができるのは、代理人が本人から代理権を授与されているからであります。代理人に代理権がない場合には、原則として本人に契約の効果は帰属しません。例えば、他人が勝手にある不動産所有者の代理人と称して、その人の印鑑、印鑑証明を盗用して不動産売買を行った場合でも、本人に効果は帰属しませんので、真の所有者は、不動産所有権を失うことはありません。しかし、例えば、AB二つの土地を所有している人が、代理人に対し、Bの土地だけに売買の代理権を授与していたが、代理人が勝手にA土地を売却してしまったというような場合、買主が、代理権ありと信じ、信じたことに正当な理由があれば、民法110条により売買は有効に帰属し、買主は、A土地を取得できます。

B 契約上の債務不履行、契約関係が消滅した場合の問題  取引行為に関する紛争では、債務不履行の問題があります。不動産の売買が成立すると、売主は不動産の引渡義務、所有権移転登記手続義務を負い、買主は代金支払義務を負います。取引の一方当事者が、これらの義務を怠って債務を履行しない場合には、他方の当事者は、契約の解除権及び損害賠償請求権を取得します。解除権を行使せずに、契約上の義務の履行及び損害賠償を求めることも、契約を解除して損害賠償請求を行うこともできます。  また、取引行為に関する紛争では、取引終了に関連した問題があります。例えば、不動産賃貸借が期間満了や契約解除などによって終了した場合に、借主は、当該不動産を貸主に返還することを要しますが、任意に返還しない借主などに対しては、訴訟を提起して、返還を請求します。この場合、明渡しを請求する者が、契約が終了したことを主張・立証して行います。これに対して、相手方は、自己に正当な占有権限があることを抗弁として主張・立証して争います。例えば、契約の解除を受けた借主が、解除の有効性を争う場合では、賃貸借は、継続的な契約で、借主と貸主との間の信頼関係の基礎の上に成り立っており、とくに不動産の場合には借地借家法などによって借主が保護されておりますので、契約関係を破壊しない特段の事情がある場合には、貸主の解除権が制限され、解除できない場合があります。判例上、賃料をわずかに遅滞したというだけでは、貸主は通常の借家契約を解除することができないので、注意を要します。

C 登記の問題  不動産のうち土地、建物の所有権は、登記(登記は、土地・建物の表示又は所有権その他の権利の設定、保存、移転、変更、消滅等の権利関係を公示するための制度です)が第三者に対する対抗要件となっております(民法177条)。対抗要件とは、すでに成立した権利関係、法律関係を他人に対して法律上主張するために必要とされる法律要件を意味し、土地・建物については登記がこれに該当します。例えば売買によって、土地・建物の所有権を取得しても、所有権移転登記をしない間に売主が別の第三者に当該不動産を売却して第三者に登記を移転してしまったような場合(いわゆる二重譲渡の場合)は、先に譲渡を受けた買主は、第三者に所有権を対抗することができないため、不動産を取得することができません。この場合買主は、売主に対して、債務不履行に基づく損害賠償を請求することができます(民法415条)。もっとも、第三者が、詐欺、脅迫をして買主の登記を妨げた場合や、買主が登記未了であることに乗じて、買主に高値で売りつける目的で不動産を取得したような場合には、自由競争の範囲を逸脱した背信的な行為でありますので、買主は、登記無くして第三者に不動産所有権を対抗することができます(いわゆる背信的悪意者排除の理論最判昭和43.8.2、民集22―8―1571)ので、買主は、第三者に対し、所有権移転登記手続を請求することができます(最判昭和32.5.30、民集11―5―843)。

 

事実による紛争
 次に、取引がない場合の不動産の紛争の場合としては、境界確定の問題があります。境界とは、隣接する土地を画する線をいいますが、現行法上土地は所在の市区町村・地番・地目・地積などを表示することによって特定され、登記所は政令の定めるところにより地番区域を定め、土地一筆ごとに地番を付することとされているので、境界確定訴訟は、裁判所がこの公法上の境界を確定する手続となります。  裁判所は、境界を確定するために、
@占有状況
A公定面積との関係
B公図その他の地図
C境界木又は境界石
D尾根、崖、谷などの自然地形
E道路、山道
F林相、樹齢
などを基準に、証人、鑑定、書証、検証などの方法をもって判断します。したがって、これらの証拠資料の収集が重要となります。  その他、事実行為の紛争としては、不動産の不法占有の問題があります。不動産の不法占拠の場合には、所有権に基づく返還請求権を行使して明け渡しを求めることができるほか、不法占拠者の占有に応じて、賃料相当損害金の損害賠償請求権を行使することもできます。  また、刑法上、他人の不動産を不法に侵奪した者は、不動産侵奪罪として、10年以下の懲役に処せられます(刑法235条の2)。不動産の侵奪とは、不法領得の意思をもって、他人の意思に反し、その事実上の占有を排除しこれに自己の事実上の支配を設定する行為をいい(大阪高判昭和40.12.27、高刑集18―7―877)、ここにいう不法領得の意思とは、権利者を排して他人の物を自己の所有物の如くにその経済的用法に従い使用又は処分する意思をいいます(最判昭和26.7.13、刑集5―8―1437)。

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