9.日照、騒音、生活権をめぐる事件

1.実体的権利について
 人格権とは、人間が個人として人格の尊厳を維持して生活するうえで有するその個人と分離できない人格的諸利益の総称をいい、身体、自由、名誉、プライバシーのほか、日照権もこれにあたります。騒音や悪臭のない環境での生活など、健康で平穏な生活を営むことも、この人格的諸利益の範疇に入ります。
 日照権や、その他の人格的諸利益を侵害する行為に対しては、侵害行為が、社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、違法である場合には、人格権を根拠に、行為の差止請求及び損害賠償請求ができます。
 日照権については、建築基準法が、建物の高さ制限北側斜線制限日影規制などを規定しております。騒音については、騒音規制法が、工場及び事業場における事業活動ならびに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を定めるほか、自動車騒音にかかる許容限度も定められております。臭気については、悪臭防止法などによる規制があります。これらの法規制に違反している場合には、受忍限度を越えた違法な侵害があることが推認されますが、これらの行政上の取締法規に違反していなくても、受忍限度を超える侵害があれば、差止請求、妨害排除請求、損害賠償請求は可能です(東京高判平成3.9.25、判時1407―69)。但し、差止請求、妨害排除請求については、相手方の権利行使を直接に制限するものであるため、その受忍限度の判断は慎重でなければならないとされておりますが、不法行為成立の前提となる受忍限度の限界線は、公平の観念からも妨害排除の受忍限度よりも低い段階で足りると解されておりますので、損害賠償請求は比較的容易に認められます(東京高判昭和59.3.28、判時1116―61など)。
 日照権侵害が、受忍限度を超えるか否かの判断要素としては、規制法違反の有無、被害の程度、地域性、加害の回避と被害の回避の可能性、加害建物と被害建物の各用途、被害者と加害者の先住関係、その他の法法的規制に対する違反の有無、交渉の経過などがあります。マンションの一階、二階に居住する住人が、地下一階付二住宅の建築禁止を求めた仮処分が認められたケース(東京高判平成3.9.25、判時1407―69)では、日影規制等の違反がないケースで、建物の距離が短いことや日影時間の増大が著しいことなどが理由としてあげられています。
 損害賠償請求については、人格権侵害に基づく慰謝料を請求する場合のほか、財産権の侵害に対する損害賠償請求も可能です。建物が建築されて隣接建物に日影被害が生じ、隣接建物の財産的価値が下がったという場合には、下落した価値に相当する金額の損害が発生していると見ることができますので、この金額を損害額として損害賠償請求をします。

2.
裁判上の手続について
 裁判上の手続としては、建築行為の差止め請求については、本案訴訟を提起して判決を待っていたのでは、建物が完成して意味を為さなくなりますので、建築禁止の仮処分を裁判所に申請し、建築行為の差止めを求める方法があります。訴訟を提起した場合には、事件が裁判所に係属して、弁論、証拠調等の手続に時間を要しますが、仮処分手続によれば、申請が受理されるとすぐに加害者を裁判所に呼出して審尋手続を行い、申請に理由があれば早急に仮処分決定がなされます。

 

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