3.株主代表訴訟

1.取締役の会社に対する責任は、商法266条に規定されているとおりであり、取締役に任務違反行為があれば、取締役は会社に対して損害賠償責任を負い、会社は当該取締役に対して損害賠償請求ができます。しかし、わが国においては、実質的に代表取締役が取締役選任に関する人事権を有しており、会社が違法行為を行った当該取締役(特に代表取締役)に対してその責任追及をすることは稀であり、その結果、会社ひいては株主の権利が害されることになります。商法267条では、会社が取締役に対して責任追及をしない場合に、個々の株主が会社のために取締役に対し損害賠償権を有する会社の権利を会社に代わって行使して訴訟を提起することを認めました(代表訴訟)。
2.取締役が会社に対して損害賠償責任を負っている場合、6ヶ月前から引続き株式(1株でもよい)を所有している株主は、取締役に対して訴えを提起するよう会社(商275条の4前段により監査役)に書面をもって請求することができ、会社がこの請求後60日以内に訴えを提起しないときには株主自身で取締役に対して損害賠償債務を会社に支払うよう訴訟を提起することができます。また、上記の60日の経過まで待っていたのでは会社に回復できない損害を生じるおそれがあるときは、上記の株主は、取締役に対して直ちに損害賠償債務を会社に支払うよう訴訟を提起することができます(商267条4項)。この場合の訴訟物の価額の算定については、請求額が訴額であるという説もありましたが、代表訴訟によって当該株主は直接損害賠償を得るわけではないこと(取締役が損害賠償義務を負っているのは会社に対してです)や右考え方では概ね訴額が多額になりがちな代表訴訟に適さず実効性がないということから、平成5年の商法改正により、財産上の請求でない請求として算定され、裁判所に納める手数料は請求額にかかわらず、平成15年民訴費用法改正前は一律に8200円、同改正後は一律1万3000円で済むこととなり、(商267条5項、民訴費用法4条2項)、代表訴訟の利用を容易にしました。

3.
代表訴訟の判決の効果は当然会社に及びます(民事訴訟法115条1項2号)。そして、株主が勝訴したときには、利益を受ける会社に対し、訴訟を行うに必要と認められる費用(調査費用や旅費等)や弁護士に支払う報酬額の範囲内で相当な額の支払を請求することが認められております(商268条の2、1項)。また、株主が敗訴したとき、会社には右敗訴判決の効果が及ぶため場合によっては会社が損害を被ることも考えられますが、右株主に会社を害することについての悪意がある場合でなければ当該株主に対して損害賠償請求ができないこととされています(商268条の2、2項)。 もっとも、代表訴訟を提起できる株主の要件が緩やかであるため(6ヶ月前より引続き株式を有する株主)、濫訴防止の観点から、被告の請求により裁判所は悪意の株主に対して相当の担保を提供するよう命じることができます(商267条6項、7項)。ここで言う「悪意」とは、「被告の責任に事実的、法律的根拠がないことを知りながら、または株主代表訴訟の制度趣旨を逸脱し、不当な目的をもって被告を害することを知りながら訴えを提起した場合を言う」(大阪高決平成9年11月18日)とされています。
4.株主による代表訴訟で近年耳目を引いたのは大阪地裁で平成12年9月20日に言渡された大和銀行株主代表訴訟です。これは、銀行の役員らに合計で7億7500万ドル(約830億円)にも上る多額の損害賠償責任を認めたものであり、株主代表訴訟をめぐって様々な問題を提起しました。
  右事件は、大和銀行のニューヨーク支店の従業員が長年にわたる不正な簿外取引を行い、会社に対して多額の損害を加えたものです。この争点は多岐にわたりますが、主に、取締役らに従業員の不正行為防止のための内部統制システムの構築に関して任務懈怠行為があったかというものでした。これに対し、裁判所は、種々の証拠を詳細に認定したうえで、健全な会社経営のためには取締役が各種のリスクを適切に把握して管理することが必要とされ、これを内部統制しなければならないとして、右内部統制システムを構築していなかった本件では、これをなさないことについて善管注意義務違反及び忠実義務違反があると認定し、当時の頭取や国際部門を統括する副頭取、ニューヨーク支店長でもある取締役らの右事件発生に関連する各取締役の具体的な職責に応じて、前記のような多額の損害賠償義務を認定したものです。
  大和銀行株主代表訴訟は、その後控訴審において、大和銀行の金融持株会社が設立され株式移転が行われる直前の平成13年12月10日に、被告49名が連帯して大和銀行に対し、第1審判決が支払いを命じた賠償額を大幅に下回る2億5000万円を支払うとの内容の和解が成立しました。この和解金額は、代表取締役の場合は会社から受け取る報酬年額の6倍まで、取締役の場合は会社から受け取る報酬年額の4倍まで、社外取締役の場合は会社から受け取る報酬年額の2倍まで取締役の責任を軽減できるとの平成13年12月改正商法の基準(商266条7項1号から3号、17項、18項)にはるかに及ばない金額であったため、和解金額が適正であったか問題を残しました。このような内容の和解が成立した背景には、平成9年の独占禁止法改正により持株会社が解禁され、平成11年の改正商法により持株会社の創設を促進するための株式の交換と株式の移転が認められ、企業再編の気運が高まり、大和銀行においては平成13年12月12日に金融持株会社として株式会社大和ホールディングスが設立されるに至り、大和銀行の完全子会社化及びそれに伴う株式移転により大和銀行代表訴訟の原告が大和銀行の株主ではなくなり金融持株会社の株主となることから、原告が株主代表訴訟の原告適格を失い訴えが却下される可能性を危惧したことがあったとみられています。

5.
わが国のほとんどのサラリーマン取締役が、多額の損害賠償金を個人的に負担することが困難であることや、役員賠償責任保険も免責事由の範囲が広く保険金額も一定限度内であることなどから、取締役の責任が過大なものとなることについては種々の議論があり、平成13年12月改正商法は、従来の取締役の責任免除制度を拡充し、新たに取締役の責任軽減制度を設けました。ただし、右判例は、コーポレートガバナンス(企業統治)コンプライアンス(法令遵守)などについて一罰百戒ともいえる認識の徹底として、その意義は現在でも大変大きいものであることに変わりはありません。

 

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