5.新株発行差止、取締役の違法行為差止請求事件

1.取締役が会社の目的の範囲内にあらざる行為その他法令又は定款に違反する行為をなし、これにより会社に回復せざる損害を生ぜしめるおそれがある場合に、6ヶ月前より引続き株式(1株でもよい)を有する株主は、会社のために取締役に対し、その行為の差止を請求できます(商272条)。これは、取締役が法令や定款違反の行為をした場合には会社に対して損害賠償の責任を負っていることとなっていますが(商266条1項5号)、事後的な救済だけでは問題があることから、事前差止を認めたものです。取締役の違法行為は、原則として監査役が差止めるべきですが(商275条の2)、監査役が右差止権を行使しない場合には、この株主による差止権が実効性を有することとなります。この株主の差止請求は、後述のとおり、違法行為の1つである違法な新株発行についても認められています(商第280条の10)。
2.ここで差止の対象となる法令定款の違反行為とは、法令または定款の具体的な規定に違反する行為のみならず、取締役の善管注意義務違反(商第254条3項、民644条)、忠実義務違反(商254条の3)も含まれます。差止の手続としては、裁判外での請求も可能ですが、実際には裁判上の差止訴訟手続を取ることが多いでしょう。裁判所で右差止が認められた場合には、その判決の効力は当然に会社に及びます。右差止請求権は正式裁判によっても可能ですが、正式裁判では判決までに時間がかかり実質的に目的を達することができない場合が多いので、仮処分手続が取られることになります。
3.次に、新株発行手続における差止についてでありますが、新株発行は、会社の支配権を変更させるものですから、適正な手続に則って厳格に行われなければなりません。新株の発行は授権資本内(商166条1項6号、4項)においては取締役会の決議で決定されます(商280条の2、1項)。定款で株式譲渡制限がある会社では、株主は法律上当然に新株引受権を有します(商280条の5の2、1項本文)。株式譲渡制限がない会社では、新株発行について、株主はもちろんのこと第三者に割り当てても良いこととされています(商280条の2、1項5号)。もっとも、株主以外の第三者に対して新株を発行する場合の発行価額は、株主に経済的損害を与えないよう、株式の時価を基準として、公正な発行価額で新株を発行しなければなりません。そのため、資本参加をもらって事業再建を図るなどの理由で株主以外の第三者に対して特に有利な価額で新株発行をしなければならないような場合には、株主総会の特別決議が必要とされます(商280条の2、2項前段)。取締役は、この株主総会において、株主以外の者に対し、特に有利な発行価額で新株を発行することを必要とする理由を開示しなければなりません(同項後段)。
4.上記のとおり、原則として、新株の発行は取締役会の決議事項とされており株主総会の決議は不要です。そのため、取締役が株主らには黙って違法、不公正な新株発行を決定する危険性がないとはいえません。そのため、会社が法令または定款の規定に違反し、または著しく不公正な方法によって新株を発行し、これによって株主が損害を受ける可能性がある場合には、株主は会社に対しその新株の発行の差止を請求することができます(商280条の10)。新株発行手続においては、発行価額の払込期日の2週間前に新株の種類、数、発行価額、払込期日及び募集の方法を公告しまたは株主に通知しなければならないとされています(商280条の3の2)。そのため、株主は違法な新株発行を事前に知って差止手続を取ることが可能となります。緊急の保全の必要性がある場合には、仮処分申立もできます。
5.なお、平成13年11月改正商法によって、新株予約権の制度が定められました。新株予約権とは、それを有する者(新株予約権者)が会社に対してそれを行使したときに、会社は新株予約権者に対して、新株を発行し、又は、これに代えて会社の有する自己株式を移転する義務を負うものをいいます(商280の19、1項)。平成9年改正商法によって導入された新株引受権型及び自己株式取得型のストックオプションは、転換社債及び新株引受権付社債とともに、この新株予約権の概念に整理・統合されることになりました。ストックオプションとは、会社が取締役または使用人に対して、予め定められた価額で、一定数の株式を取得する権利を付与する制度です。つまり、会社の業績が上がって株価が上昇すれば、取締役は新株引受権を行使して、新株または会社の有する自己株式を取得したうえこれを売却し、取得価額との差額相当分の利益を受けられる報酬制度です。
 会社が新株予約権を発行する場合は、会社は原則として取締役会において所定の法定事項を定めますが(商法280条の20、2項)、さらに、会社が株主以外の者に対して特に有利な条件で新株予約権を発行するときは、所定の法定事項及び各新株予約権の最低発行価額についての株主総会の特別決議が必要です(商280条の21、1項前段)。取締役は、この株主総会において、株主以外の者に対し特に有利な条件で新株予約権を発行することを必要とする理由を開示しなければなりません(同項後段)。会社が、この手続に違反し、または著しく不公正な方法によって新株予約権を発行し、これによって株主が損害を受ける可能性がある場合には、株主はこの新株予約権の発行差止の請求をすることができます(商法280条の39、4項、同法280条の10)。

 

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